はじめに
2023年4月-5月に産業医科大学(北九州)で開催された産業医学基本講座に参加しました。この講座は産業医学のメッカである産業医科大学で大御所の先生から産業医学のレクチャーや実習を受けることができます。
また、更新不要の産業医資格を手に入れることができたり、労働衛生コンサルタントの筆記試験が全て免除になったりとさまざまな特典が盛り沢山の講習です!今回はこの産業医学基本講座(本学開催)を徹底解剖していきたいと思います。
産業医学基本講座とは
概要
産業医科大学の教員と産業医よる、産業医学の基礎知識から産業医活動に必要な実践的な技術まで体型的かつ幅広い内容を扱う講座です。
総授業時間は144時間(座学129時間 実習15時間)です!
ここまで長期間の講習会・研修会は他にはありません。
もともとは産業医科大学卒業生に対して公開されていた講座ですが、近年では学外の受講者も増えてきています。自分が受講した2023年度は学外40名、卒業生40名で構成されていました。
2017年から東京と産業医科大学(北九州)の2拠点で開催されています。
産業医学基本講座の特徴は大きく3つあります。
- 座学だけでなく実習が充実している
- 講師・受講生のモチベーションが高い
- 更新不要の産業医資格など特典が豊富
- 座学だけでなく実習が充実している
産業医科大学には騒音実習、局所排気装置のモデル、実験室など産業医学のための施設が設けられています。産業医学基本講座(本学開催)ではこれらの設備をフル活用します。
- 有害業務管理実習
- じん肺実習
- 職場巡視実習
- 作業管理実習
などを実際に機材を用いて行います。これらの実務的な研修は大学開催ならではだと思います。また、産業医業務に必要な各種報告書やチェックリストなどのテンプレートが配布されるため、持ち帰って実務に活用することができます。
- 講師・受講生のモチベーションが高い
受講生は社会人(医師)であるにもかかわらず2ヶ月間の休みを捻出して講習会に参加する人たちです。今後は産業医として本格的に活動していこうと考える人がほとんどです。医師会主催の単発の研修会では「とりあえず受講しておこう」という意識で受講する医師も多いと思います。一方で産業医学基本講座ではある程度の覚悟を決め、仕事がない期間を作って参加するため、明確な目的をもった人が多いと言えます。
また講師陣もこの事情を理解しているようで、受講生を「今後本格的に産業医活動をしていく人たち」と捉えて授業後も個別相談に応じたり、時には夜に食事会を企画していただいたり、積極的に情報や機会を与えようという姿勢があります。
- 更新不要の産業医資格など特典が豊富
産業医学基本講座のホームページには受講の特典が以下のように書かれています。
- 労働衛生コンサルタント(保健衛生)の筆記試験免除となる
- 社会医学専門医制度の基本プログラムが受講完了とみなされる
- 更新不要の産業医資格を得られる
- 日本医師会「認定産業医」を申請できる
これら以外にも大きな利点があります。
就職活動に産業医科大学のエージェントを活用できるという点です。
産業医大ソリューションズというエージェント会社があります。
こちらの会社の業務の1つに産業医学基本講座(本学&東京)受講生を対象とした産業医の職業斡旋があります。
産業医大ソリューションズは専属産業医をメインとして案件を紹介しています。講習期間中に案内があり、zoomによる面談が行われます。
就職希望時期、希望勤務地、希望年収を聴取されたのちに随時案件が紹介されます。面談を希望すると担当のスタッフと一緒に現地に赴き面談を受け、就職活動を進めていきます。
申し込み方法
前年の8月ごろからweb上で事前申し込みが開始されます(Googleフォームに個人情報を書き込みます)。11月下旬ごろに大学から資料や必要書類が送付されます。必要書類を揃えた上で申し込み期間内(12月1日~1月31日)に郵送で提出する必要があります(本登録)。受講が許可された場合は2月下旬に受講許可証が送付されます。
※注意点
本登録の際に「宿泊地として大学のゲストハウスを利用するかどうか」の調査が行われます。近年では学外の受講者が多くなってきたため、希望者に対してゲストハウスの部屋数が不足しています。ゲストハウスは先着順で入居者が決まるため、希望者は本登録の受付と同時に郵送書類が到着する必要があります。
自分の場合は「配達日指定」を活用しました。
書類を郵便局で12/1に指定日を設定しました。無事12/1付けで大学に書類が到着し大浦ゲストハウス入居も決定しました。
金額
本学開催(北九州):210,000円
東京開催(東京):500,000円
倍率
今まで抽選が行われたことはありません。
定員は本学(北九州)で100名程度、東京で40名程度です。2023年の本学(北九州)では80名程度で開催されました。2ヶ月間まるまる仕事を休んで講習会に参加できる社会人は多くありません。今後も抽選が行われる可能性は高くないと思われます。
生活環境(大浦ゲストハウス)
立地
産業医科大学は北九州の住宅地の中にあります。最寄駅はJR折尾駅です。駅からは徒歩15分です。近くにはドラックストアやスーパー(サンリブ)もあり、飲み屋や飲食店も大学の周辺にたくさんあります。
生活する上では車は必須ではなく、不便はないと思われます。
折尾駅から小倉駅へは15分ほど(特急ソニック利用)、博多駅へは30分ほど(特急ソニック利用)で出られます。
ゲストハウス
大浦ゲストハウスは産業医科大学から徒歩10分程度の立地にあります。
外見は少し古いのですが、屋内はリノベーションされており非常に快適に利用できました。本来2人用に設計された1LDKの部屋を一人で活用することができます。
2ヶ月間の利用料金は光熱費水道代を合わせて6~7万円です(その年の気候により光熱費の変動あり)。
飲み屋
大学周辺にも良いお店はたくさんありますがお隣の黒崎駅に足を伸ばすと選択肢が広がります。
大学周辺のおすすめ店を1つ紹介します。
肴弥
新鮮なお魚の刺身から揚げ物、焼き物バラエティー豊富です。1つ1つの品のクオリティーが高いです。
お酒もセラーからワインを選べたりと力を入れています。
宴会にも個人利用にも向いています。
2ヶ月を有効活用するための5箇条
- 名刺を200枚刷って参加
- 同期のグループラインを作って積極的に交流
- 毎晩飲み会を開催
- 1講師につき必ず1つは質問(授業後の個別質問も可だができれば授業中に)
- 産業医就活をしたい人は講師の先生に相談
・名刺を200枚刷って参加
臨床の先生は自分の名刺を持っていらっしゃらない方が多いです。産業医は企業を相手にしたビジネスマン的側面が強い仕事です。産業医としては、自分を簡潔に表す名刺を常に携帯し、人脈形成の場面にはすぐに名刺を出せるようにしておかなければいけません。基本講座では同期や上の先生とネットワーキングをする機会が非常に多いです。
上の先生との名刺交換の場合は、その後すぐにメールをしてその日のお礼やご挨拶をするのが吉です。今後何か困った際に良い相談先となる場合があります。
ラスクルなどで100枚あたり500-1000円で名刺を作ることができます。PCで簡単に作れるテンプレートもあるため自宅ですべての工程を終えることができます。
・同期のグループラインを作って積極的に交流
基本講座にはこれから本格的に産業医をキャリアにしていきたいと考える人が多く参加しています(高額な参加費と膨大な時間を費やして学びにきています)。のちに産業医として活動するようになってから情報共有や案件紹介などする良い仲間になりうる人たちです。グループラインを作成して2ヶ月間の交流の基盤にしましょう。ここで培った人脈は今後の宝となります。本学開催と東京開催、年度を跨いだグループラインも存在します。そちらにも所属してより幅広い人間関係を形成していくことも重要です。
・毎晩飲み会を開催
授業後の飲み会が基本講座の裏の醍醐味と言えるかもしれません。グループラインで飲み会を計画して同期の交流を深めると人脈形成ができます。産業医大の先生を交えた飲み会(先生が企画したり、受講生がお誘いしたりする)も多数開催されるため産業医大との関係も作れます。中には飲み会の出会いをきっかけに専属産業医の就職案件に繋がった受講生もいます。
学外の参加者はほとんどが単身赴任で参加している方です。夕方以降は予定がないので参加率も高いです。ぜひ気軽な気持ちで飲み会を開催してみてください。
・1講師につき必ず1つは質問(授業後の個別質問も可だができれば授業中に)
講師は自分の授業を受講生がどのように受けていて、伝えたいことが伝わっているのかを非常に気にされます。そういう心境の中で受講生からポジティブなフィードバックや質問があれば非常に嬉しいです。また、自分がわからないことは他の人も疑問に思っていることが多いです。自分の勉強だけでなく、周囲の人の学習機会も増やすことができます。さらには質問でできたご縁が今後の学会や事例相談、案件紹介などに繋がっていくことがあります。質問者にはこのような様々なメリットがあります。恥ずかしがらずに率先して質問をするようにしてください。
・産業医就活をしたい人は講師の先生に相談
前にも触れましたが、産業医案件(特に専属案件)は産業医大の内部で循環していることがあります。産業医大の先生と信頼関係を作ることができればそれらの案件を紹介していただけることがあります(産業医大ソリューションズを紹介されることもあります。)。産業医は基本的に「ご縁」と「紹介」の世界です。媚びを売るのとは違いますが、自分が産業医学に関心があることをアピールすることは自分のキャリアに良い影響を与えるのではないかなと思います。
実際に受講してみた感想
受講内容
産業医学基本講座の授業内容は初学者にとっては非常に難解な内容であると言えると思います。授業のはじめから労働安全衛生法や労働基準法の講義が始まります。その後も特定化学物質や有機溶剤の法令、専門的内容の授業が続きます。
授業は①前半、②GW(休講)、③後半に分けられます。特に前半は法令や規則など抽象的な内容がメインです。08:50~17:50まで授業が続くので最初は腰や首が固まり痛くなることもありました。後半になるにつれて作業環境管理や職場巡視の実習などが始まり実務的内容も増えてきました。
産業医学基本講座は社会医学系専門医の基本プログラムとして代替できます。そのため実務的内容だけでなく、社会医学の「基礎」の内容も含める必要があります。そのため授業が「明日の産業医活動に役立つ内容」とは限りません。
受講のマインドセットとしては産業医活動の「メソッド」だけでなく、法令などの基礎的・学術的な内容も勉強しようという心持ちで参加するのが良いのではないかなと思います。
2ヶ月間ひたすら授業を受けて夜は飲み会をする生活に明け暮れていました。まるで大学生活が戻ってきたかのような日々で非常に懐かしく楽しかったです。様々な資格や知識だけでなく、幅広い人脈形成ができるのが基本講座のメリットです。
産業医を本業としたい人にとってはぜひおすすめの講座です。
コメント