はじめに
臨床医の就職は医局派遣であったり、初期研修のマッチングであったり就職先に困るということはそうそうありません(希望の病院にいけるかのかという問題はありますが、少なくとも失業することはありません。)
産業医の場合は違います。
産業医資格を持っていたとしても案件を獲得するには苦労する人が多いです。
理由としては
- 企業は経験者を求めている
- 未経験者の報酬は高くない
- 都市部は応募倍率が高い
が挙げられます。
専属・嘱託の案件獲得の方法に多少の違いはあれど、手段ににあまり大きな違いはありません。
どのようにすれば効率的に好条件の案件を獲得できるのか、その方法をまとめていきたいと思います。
案件獲得の様々なルート
産業医の案件獲得は元々は知り合い同士の紹介で成り立っていました。それがいつからかエージェントが案件を受諾し産業医に分配するようになりました。
年配の産業医の中には産業医の案件は「転がってくるもの」と考える人もいます。実際に昔はそうだったのでしょう。
現在は産業医の数も増え、状況は変わってきています。
産業医の就職活動には次の方法があります。営業などの発展的な方法もありますが、今回は初めて産業医をする人むけとして基本的な方法を紹介します。
- エージェントの活用
- 転職サイトへの登録
- 知り合いからの紹介
- 医局・講座からの紹介
- 医師会・健診機関からの紹介
エージェントの活用
初めて産業医を始める人にとって一番ポピュラーな方法です。会社に登録して面談すると希望の条件の案件を随時報告してくれます。
メリットとデメリットを紹介していきます。
- メリット
エージェントを活用することで人脈がなくても簡単に案件と接触できます。また、エージェント会社にもよりますが、第三者として会社と産業医の中間に立ち報酬交渉や条件交渉を行ってくれる場合あります。
特に専属産業医の場合は契約締結時に産業医の報酬の一定割合分を紹介料として企業から受け取るため、エージェントも給与交渉に積極的に挑むことが多いです。また、企業からエージェントに紹介料が渡るのは契約時の1回のみなので中抜きされ続けることもありません。
日本人の場合は自身の報酬交渉に慣れていないため、エージェントを介して交渉したほうが安全に条件合意に到達できます。心理的ストレスも少なくて済みそうです。
- デメリット
エージェントのデメリットは報酬を中抜きされることです。
特に嘱託案件の場合はデメリットが大きくなります。案件ごとの仲介手数料がいくらで、どの程度の割合なのかが明らかにされていないことがほとんどです。中にはかなりの割合を手数料で徴収し、産業医の報酬を著しく下げるエージェント会社もあります。
定額で仲介手数料を徴収していることも多く、報酬交渉にも消極的です。
また企業と産業医が直接契約することを避けるために、企業と産業医の直接やりとりを禁止するエージェントも存在します。連絡のたびにエージェントが介入するためやりとりに時間がかかります。産業医の主張を遮断する場合もあり、産業医にとって不本意な結果になることもあります。
転職サイトへの登録
ビズリーチやLinkedinなどハイクラス転職向けに作られたサイトが有用です。一般職がメインですが、最近は産業医やクリニック院長などの医師向け案件も増えてきました。
- メリット
自分のプロフィールや希望条件をあらかじめ登録しておきます。企業側からメールで面談スカウトがきたり、こちらから面談を申し込むことができます。専属に限らず嘱託案件も散見されます。仲介手数料は企業から転職サイトへ規定に則って徴収されるため透明性を保って契約を結ぶことができます。
- デメリット
報酬交渉や条件交渉を自分で直接行う必要があります。交渉になれねいない人にとっては不利な条件での契約になってしまう可能性があります。また、転職サイト上に産業医案件はまだそれほど豊富に掲示されていません。自分の希望や地理的条件に合致したものが見つかるとは限りません。とりあえず登録してみて泳がせておく程度の認識で良いかもしれません。
知り合いからの紹介
学会や勉強会へ積極的に参加し人脈形成をすると産業医案件を紹介されることがあります。エージェントが出現する前はこのようなつながりやコネでの案件獲得が主でした。知り合いからの紹介を得ること自体が少しハードル高めですが、メリット・デメリットを紹介します。
- メリット
仲介手数料を取られることなく、好条件の案件を紹介されることがあります。また知り合いの紹介であることから事業所の安全衛生に対する考え方もある程度クオリティが保たれているかもしれません(逆も然りで産業医としてのクオリティも期待されている。)。
- デメリット
知り合い(大抵は目上の人)からの紹介ということで、案件を受諾した後に自由に辞めたり条件交渉をしにくくなる可能性があります。また事業所でトラブルが生じた場合は紹介者と事業者の関係に悪影響が出る可能性があるため慎重に行動する必要があります。意外と気を使うのが「知り合いからの紹介」かもしれません。
医局・講座からの紹介
産業保健に強みがある大学の公衆衛生・衛生学教室では所属の医師に産業医案件を紹介しているところがあります。
具体的には
などがあります。産業保健領域を研究分野に据えているため地域の産業医案件に強いです。また、都市部では臨床の医局が企業の産業医案件を確保していることがあります。医局員のバイト先となっているようです。
- メリット
大学名を看板に案件を集めることができるためネームバリューは圧倒的に強くなります。また有力な教官はいる場合、教官の元に企業から相談が来るため案件が自然に集まってきます。エージェントなどの仲介もいないため手数料はかからず、ネームバリューを活用して価格交渉もしやすいです。
- デメリット
あくまで大学に紐付いている案件ですので案件を引き継いで独立したり、勝手に条件変更や交渉はできません。また指導教官が顧問についている場合があるため産業保健活動を自分の意思で行うことに制限がかかる可能性があります。これらの案件にあやかるためには入局したり講座の専門医プログラムに登録する必要があるため自分のキャリアパスと一致しない場合は不自由に感じるかもしれません。
医師会・健診機関からの紹介
地域の産業医案件は地区ごとの医師会や健診機関が集めていることがあります。医師会に所属したり健診機関で検診バイトをして人脈を作ることで案件紹介が来る可能性があります。
- メリット
医師会からの案件の場合、仲介手数料がない(もしくは少ない)ため報酬額が一定以上に担保されています。また医師会に産業医を依頼する企業の産業保健への意識は一定以上の質は担保されていることが多いため、仕事の内容や要求度も充実しやすいと考えられます。
健診機関は多くの企業の健診を受諾しています。企業とのコネクションが非常に多い組織といえます。健診とセットで産業医を派遣していることもあり案件も充実しています。
- デメリット
医師会の案件を獲得するためには医師会に所属しなければいけません。年会費が高いため産業医の案件のみの目的で加入するにはコストパフォーマンスがあまり良くないかもしれません。また、条件の良い案件は年配の医師から優先的に回るため、加入歴や年齢が若いと良い案件に当たらない可能性があります。医師会経由の案件を勝手に他の人に譲渡したり、条件変更を行うことはよろしくないとされているので注意が必要です。
健診機関の産業医案件の場合は健診の付録商品の位置付けなので価格が安い可能性があります。「1社目の壁」を越えるための案件としては適しているかもしれません。
まとめ
大雑把に案件獲得ルートを紹介してきました。それぞれのルートに長所・短所がありますが、あまりとらわれることなく「1社目の壁」を越えることを優先した方が良いと思います。経験値を積んでいけば自ずと報酬は上がってくるのではないかと思われます。
今回紹介したルートについて、より細かい方法や注意点があります。今後より深く解説していきたいと思います。
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