はじめに
最近研修医の方々から、新たに始める産業医の進路を相談されることがありました。産業医科大学卒ではない若手医師が産業医の世界に飛び込む例はあまり多くなく、明確なキャリアが示されていることは少ないです。
- 専属産業医か嘱託産業医か
- 未経験からの産業医就活はどうするのか
- 収入はいくらくらいになるのか
- 専門医は必要なのか
など多くの質問をいただきました。
そこで研修医→産業医のキャリアについてシリーズでまとめていこうと思います。
研修医に限らず
これから産業医をはじめたい未経験医師にとってヒントになる情報を公開します。
今回は「産業医を始めるなら専属か嘱託か」という選択について考えたいと思います。
専属・嘱託産業医の違い
専属と嘱託とは
従業員が常時50名以上いる事業所では産業医を選任する必要があります。
1000人未満の事業所では嘱託産業医という月に1回~数回ほど職場を訪問する産業医で良いとされています。
一方で1000人以上の事業所では常勤の産業医である専属産業医でなければいけません。
専属と嘱託の違いは一言で言うと常勤か非常勤かというところになります。
専属と嘱託の制約の違い
専属産業医は他の事業所の産業医を兼業することは基本的に不可となります。
嘱託産業医の場合は距離や事業所数に制限なく契約を結ぶことができます。
さらに専属産業医の場合は副業についても制約がつく場合があります。
キャリアが浅い専属産業医は報酬が低い場合があります。その場合医師バイトで補填すればいいではないかと考えるかもしれません。
専属産業医を選任する大企業では就労規則に「副業禁止」が定められていることがあります。産業医も社員の1人であるため「副業禁止」のルールは適応されます。
副業禁止の会社でも合意のもと副業を行う方法もあります。こちらの方法についてはシリーズの後半でまとめたいと思います。
専属・嘱託の報酬
専属産業医と嘱託産業医の報酬も各々千差万別ですが相場を比べてみたいと思います。
専属産業医の年収相場は1000万円から1500万円です(中には800万円台や2000万円台などもあります。)。
嘱嘱託産業医は1件あたり5万円/月と仮定します。
(エムスリーなどで価格崩壊が起きていますが、産業医を本筋のキャリアで考えている人が持つ案件の価格帯は5万円/月で大きな変化はありません。)
専属産業医は週4勤務の場合が多いため年収は時給換算で6500~10000円ほどです。
嘱託産業医の場合は1回の訪問で1~3時間、移動で1時間ほどかかると見積もると時給換算で12500~25000円となります。
報酬面では嘱託産業医>>専属産業医となります。
専属・嘱託のどちらから始めるべき?
報酬と自由度では嘱託産業医の方が恵まれているように感じるかもしれません。産業医のキャリアを始めるにあたっては専属と嘱託のどちらから始めたら良いのでしょうか?
答えは歩んできたキャリアによって変わります。
- 研修医修了もしくは専門医なしで始める場合
- 臨床の専門医を持った状態で始める場合
研修医修了もしくは専門医なしで始める場合
研修医修了時点もしくは専門医を持っていない方は更新が必要な資格を所持していない状態です。
これは非常に有利な立場でもあります。
専門医をもちある程度キャリアの進んだ医師だと、専門医資格を維持するために週に数日は病院で臨床をしなければいけません。また、中には常勤で病院に勤務し続けなければいけない専門医資格もあります。
研修医修了、もしくは専門医なしの場合、このような「しがらみ」を気にせずに産業医に没頭することができます。
これらの方々は
専属産業医から始めることをお勧めします。
収入は嘱託産業医>専属産業医ですが、最初に専属産業医を経験しておくことで後の契約や報酬交渉に有利になることがあります。
未経験から嘱託産業医を始めようとしても案件が集まらないことが多いです。これを「1社目の壁」と言いいます。また、運よく案件獲得しても報酬が低い場合もあります。
逆に専属産業医を数年経験してから嘱託産業医に移行した場合、しっかりした現場で実績を積んだ「経験者」として選考や報酬交渉が通りやすくなります。
事業者は「困りごと」について問題解決をしてくれる産業医に報酬を払いたいと考えています。
大手の会社で専属産業医を経験した産業医は臨床片手間の産業医と比べて、多くの知見をストックしていると思われます。
本気で産業医をキャリアに据える場合は
初めは専属産業医を行い、数年を経てから嘱託産業医に移行して「独立系産業医」になることが手堅い方法なのではないかと思います。
臨床の専門医を持った状態で始める場合
産業医キャリアについては、実は専門医を持った先生の方が悩みは多いです。
臨床でキャリアを積んできた先生でも、産業医の世界に飛び込むと未経験として0からキャリアが始まります。
嘱託産業医で始める場合、最初は案件が集まらず、1時間2万円の案件から経験を積んでいく方も多いです。
多く聞かれるのが「臨床の専門医バイトよりもコスパが悪い」という悩みです。専属キャリアを経て嘱託産業医に転身すれば専門医バイト以上の単価で案件を受けることも多いです。
一方で臨床の片手間で嘱託案件を引き受けているままだと、なかなか単価も上がらず案件も集まりません。
中には臨床をやめて専属産業医からキャリアを積んでいこうと考える方もいらっしゃいます。
その時ネックになるのが専門医資格です。
専門医を維持するためには平日日中に臨床を継続しなければならず、産業医に没頭しにくくなります。
専門医資格を破棄して産業医に転身するのも良いですが、今までの専門医取得までの苦労が無駄になってしまいます。
心理学用語で「サンクコストバイアス」というのですが、
今まで投入してきた労力を切り捨てることができずに、ついつい労力を投下し続けてしまう現象です。
- 自分がなぜ産業医をするのか?
- 自分のキャリアのゴールは何なのか?
しっかりキャリアパスを見通した上で産業医を始めることをお勧めします。
まとめ
専属産業医、嘱託産業医のどちらかを選択するかはこれまでのキャリア、本人の考え方によって答えが変わってきます。
初期研修修了、専攻医中断など比較的キャリアが浅い段階では専属産業医の経験を最初に積むことをお勧めします。
嘱託産業医を一度始めてしまうと、専属産業医に転身することは難しいという声もあります。(専属になるためには嘱託先を全て解除しなければいけなくなる。)
土台を固めてから嘱託産業医に移行した方が報酬や事業の伸びしろは大きくなると思います。
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[…] 研修医修了からの産業医キャリアのはじめ方① ~専属か、嘱託か〜 […]