はじめに
産業医としてキャリアを進めていく上で、どのように指導やOJT(On the Job Training)の機会を得ていくのかという問題にぶつかります。産業医の資格自体は座学を聞くだけで取れてしまいます。産業医は嘱託でも専属でも1つの事業所に1人しか配置されていないことがほとんどです。企業は産業医を育成する場所ではないため、産業医活動を開始した後も「質の向上」を目的としたステップは用意されていません。
産業医の技能や方法論を学んでいく方法として大きく3つの方法があるのではないかと思います。
- 産業保健をメインに扱う公衆衛生の教室に所属する
- 健康管理室・健康管理センターなどを持つ大企業で専属産業医をする
- 健診機関に所属して産業医を行う
- 組織内で指導を受けずに自力で学習機会を作っていく
これらについて、いくつかの事例をもとに解説してみようと思います。
①大学院に所属する
産業保健をメインとした公衆衛生系の講座が日本全国にいくつか存在します。そこでは産業保健に関する研究のほか、研究室がいくつか企業の嘱託産業医契約を持っており、指導医のもとで産業医実務経験を積んでもらうという体制が作られています。
筑波大学や岡山大学の衛生学・公衆衛生学系の教室では産業保健分野で実績を積んだ教官が所属しており、産業医の指導体制を敷いているようです。(内部の事情は実際に問い合わせてみなければわからないので、情報収集の上連絡をとってみてください。)
メリットとしては
研究をしながら産業医で生計を立てることができ、スキルも同時に学ぶことができる
指導医のもと社会医学系専門医や産業衛生学会専門医を取得することができる
学位を取得できる
などがあります。
産業医の実務だけでなく、学位や専門医も取り、将来的にはアカデミアのポストを狙っていきたいと考えている人にはぴったりだと思います。
②大企業の健康管理室に所属する
製造業系で全国に工場を持つような大規模な企業だと健康管理室を設置しているところがあります。
健康管理室には産業医・保健師・心理師などが多く所属し、産業保健に関する全社の方針を決定し稼働しています。さまざまな経験値の産業医が複数所属しているため若手産業医に対するOJT体制が用意されています。
どの企業がどの程度の健康管理室を保持しているかは外部からは分かりづらいことが多いです。情報収集の方法はおきく2つあります。
・産業医科大学 修練医コース
産業医科大学の産業医の修練医コースというものがあります。産業医大卒の医師が産業医の研鑽を積むために大企業などで産業医経験を積むコースです。このコースの派遣先になっている企業は大規模な健康管理室を設置していることが多いです。外部の大学を卒業した産業医であっても修練医コースに参加できます(定員あり)。派遣先の企業ではほぼ間違いなくOJTの機会を得られるのではないかと思います。また、産業医科大学での修練する機会も与えられるため本流の技能が身につきそうです。
・産業衛生学会で情報収集
企業の産業医体制についての情報は産業衛生学会の懇親会などで名刺を配りつつ、多くの産業医とコミュニケーションを取ることで集めることができます。場合によっては事業所見学の機会にもつながり、就職活動にもなります。修練医コースの場合はどうしても産業医科大学卒業生がメインになりますし、コースの中で九州で実務をこなす期間が発生するため、外部の大学を卒業した医師にとっては難しいことがあります。企業に直接就職することによって直接、指導の環境を受けることができます。
③健診機関に所属する
健診機関は企業の健康診断を受注している機関です。企業に対する産業医業務も担っている機関もあり、産業医が複数名所属していることがあります。健診機関に所属することで短期間で集中的に実務経験を積むことができ、経験がある産業医からの指導を受けることができます。
また一般的な産業医業務では健康診断を行わないことが多いですが、健診機関に所属することによって健診業務を自分で行うことになります。健診の問診から職場での産業医面談まで自分で行うことによって労働者の状態をより多面的に把握することができます。ただし、健診機関の場合は健診業務が非常に多いため、純粋な産業医業務だけでないため産業医に特化したい人にとっては優先度が下がる選択肢なのかなと思われます。
④自力で勉強していく
嘱託産業医で活動していたり、1人職場の専属産業医の場合は指導体制は用意されていないので自分から行動していくことが大切です。キャリアアップの指標として労働衛生コンサルタントを取得するのも目標として良いかもしれません。また、産業医の勉強会や私塾を作っている先生方もいらっしゃいます。産業医科大学出身の先生が中心となって産業医の勉強会イベントを開催していることも多いです。これらの情報をSNSなどで収集し参加してみるのが良いかもしれません。
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